「問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。
2021.10.13
少なくともインターネット上では、場面緘黙症経験者が後遺症に悩まされているという話を時々みかけます。たとえば、緘黙症のせいでうつ病になった、コミュニケーション能力が低いといった具合にです。
しかし果たして本当にそうなのでしょうか?場面緘黙症が原因で後遺症になったということを実証するためには、緘黙症ではないが、その他の特性は全く同じ自分の人生を再現するパラレルワールドの世界を作らなければ、厳密には不可能です。
そして、何よりも不安症の寛解後も持続する機能上の制約の多くは、精神障害を発症する前からある既存の特性を反映している可能性を指摘した研究(Schopman et al., 2017)やうつ病において、寛解後の機能障害は、うつになってから生じる傷跡よりもうつを発症する前からすでに存在している脆弱性を反映している可能性を示唆した研究(Bos et al., 2018)も発表されています。
内在化疾患(不安症・うつ病)リスクが高い年長青年において、内在化症状の経験が性格特性に与える傷跡効果はあったとしても弱く、それよりも神経症傾向という性格特性による内在化症状リスクへの脆弱性の方が効果が大きいという研究(Williams et al., 2021)もあります。
これらの研究が本当ならば、不安症の影響による後遺症は大したことはなく、それよりも不安症になる前からある特性の方が重要だということになります。
〇場面緘黙症の後遺症は、緘黙発症前から既に存在している状態を反映している可能性
上述した研究がもし本当ならば、私なんぞは場面緘黙症にも同様のことが当てはまるのではないか?と考えてしまいます。つまり、いわゆる場面緘黙症の後遺症とやらは緘黙を発症する前からある当人の特性を反映している側面が全てとは言いませんが、ある程度はある気がします。もちろん、この種の研究は現時点で探しても見当たらない(はず)なので、確たる証拠はありませんが。
たとえば、場面緘黙症の後遺症でうつ病になったと主張する人がいたとしましょう。それは果たして場面緘黙症の影響なのでしょうか?また、仮に場面緘黙症の影響だとしても、それがすべてではなく、あくまでも1つの要因に過ぎないということはないのでしょうか?
事実、場面緘黙症と関連するとされる抑制気質はうつ病リスク(Caspi et al., 1996; Reznick et al., 1992)でもあります。してみると、場面緘黙症経験者がうつ病を発症したという現象には別の見方がでてきます。すなわち、緘黙症を発病する前からもともとある抑制気質がうつ病の引き金になったという解釈です。
もちろん、こちらも抑制気質の結果、うつ病になったというよりかは、数ある要因の1つに抑制気質があったと考える方が妥当でしょう。
あるいは、場面緘黙症のせいで社会経験が十分につめず、コミュニケーション能力が低いということを後遺症としてあげる人もいるかもしれません。実際、場面緘黙児童青年が年長になるほど、社会的コミュニケーションスキルが低かったという研究結果から、緘黙の治療を放置すると、緘黙人の状態がどんどん悪くなっていくと考察した研究報告(Michaels et al., 2018)が存在します。しかし、この研究は初めからコミュニケーションスキルが低い緘黙児が場面緘黙症を青年まで引きずりやすいと考えることも可能で、特性様効果の解釈も成立します。
また、子供の頃、場面緘黙症だったせいで雑談が苦手などということを緘黙の後遺症としてあげる人もいるかもしれません。しかし、その場合でも緘黙症云々とは関係なく、もともと雑談が苦手だったという可能性も考慮する必要があります。もちろん、緘黙症で他者と会話する機会が奪われたことによる「雑談力」の発達不全を完全に否定するつもりはありませんが。
いずれにしろ、場面緘黙症の後遺症で〇〇になったという説明の仕方には注意した方が良さそうです。
〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Williams, A. L., Craske, M. G., Mineka, S., & Zinbarg, R. E. (2021). Reciprocal effects of personality and general distress: Neuroticism vulnerability is stronger than scarring. Journal of Abnormal Psychology, 130(1), 34–46. doi: 10.1037/abn0000635
しかし果たして本当にそうなのでしょうか?場面緘黙症が原因で後遺症になったということを実証するためには、緘黙症ではないが、その他の特性は全く同じ自分の人生を再現するパラレルワールドの世界を作らなければ、厳密には不可能です。
そして、何よりも不安症の寛解後も持続する機能上の制約の多くは、精神障害を発症する前からある既存の特性を反映している可能性を指摘した研究(Schopman et al., 2017)やうつ病において、寛解後の機能障害は、うつになってから生じる傷跡よりもうつを発症する前からすでに存在している脆弱性を反映している可能性を示唆した研究(Bos et al., 2018)も発表されています。
内在化疾患(不安症・うつ病)リスクが高い年長青年において、内在化症状の経験が性格特性に与える傷跡効果はあったとしても弱く、それよりも神経症傾向という性格特性による内在化症状リスクへの脆弱性の方が効果が大きいという研究(Williams et al., 2021)もあります。
これらの研究が本当ならば、不安症の影響による後遺症は大したことはなく、それよりも不安症になる前からある特性の方が重要だということになります。
〇場面緘黙症の後遺症は、緘黙発症前から既に存在している状態を反映している可能性
上述した研究がもし本当ならば、私なんぞは場面緘黙症にも同様のことが当てはまるのではないか?と考えてしまいます。つまり、いわゆる場面緘黙症の後遺症とやらは緘黙を発症する前からある当人の特性を反映している側面が全てとは言いませんが、ある程度はある気がします。もちろん、この種の研究は現時点で探しても見当たらない(はず)なので、確たる証拠はありませんが。
たとえば、場面緘黙症の後遺症でうつ病になったと主張する人がいたとしましょう。それは果たして場面緘黙症の影響なのでしょうか?また、仮に場面緘黙症の影響だとしても、それがすべてではなく、あくまでも1つの要因に過ぎないということはないのでしょうか?
事実、場面緘黙症と関連するとされる抑制気質はうつ病リスク(Caspi et al., 1996; Reznick et al., 1992)でもあります。してみると、場面緘黙症経験者がうつ病を発症したという現象には別の見方がでてきます。すなわち、緘黙症を発病する前からもともとある抑制気質がうつ病の引き金になったという解釈です。
もちろん、こちらも抑制気質の結果、うつ病になったというよりかは、数ある要因の1つに抑制気質があったと考える方が妥当でしょう。
あるいは、場面緘黙症のせいで社会経験が十分につめず、コミュニケーション能力が低いということを後遺症としてあげる人もいるかもしれません。実際、場面緘黙児童青年が年長になるほど、社会的コミュニケーションスキルが低かったという研究結果から、緘黙の治療を放置すると、緘黙人の状態がどんどん悪くなっていくと考察した研究報告(Michaels et al., 2018)が存在します。しかし、この研究は初めからコミュニケーションスキルが低い緘黙児が場面緘黙症を青年まで引きずりやすいと考えることも可能で、特性様効果の解釈も成立します。
また、子供の頃、場面緘黙症だったせいで雑談が苦手などということを緘黙の後遺症としてあげる人もいるかもしれません。しかし、その場合でも緘黙症云々とは関係なく、もともと雑談が苦手だったという可能性も考慮する必要があります。もちろん、緘黙症で他者と会話する機会が奪われたことによる「雑談力」の発達不全を完全に否定するつもりはありませんが。
いずれにしろ、場面緘黙症の後遺症で〇〇になったという説明の仕方には注意した方が良さそうです。
〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Williams, A. L., Craske, M. G., Mineka, S., & Zinbarg, R. E. (2021). Reciprocal effects of personality and general distress: Neuroticism vulnerability is stronger than scarring. Journal of Abnormal Psychology, 130(1), 34–46. doi: 10.1037/abn0000635
スポンサードリンク