「問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。
2018.04.30
興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクトだけ読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。
なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。
今回は、社交不安症の人達は社会的状況でフロー状態になりやすいという研究です。
なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事1⇒バスの無料乗車券で高齢者の抑うつ、孤独感が低下、ボランティア等が増加
最近の記事2⇒初産年齢は母親だけでなく、父親からも遺伝する
Blalock, D. V. Kashdan, T. B., & McKnight, P. E. (2018). High risk, high reward: Daily perceptions of social challenge and performance in social anxiety disorder. Journal of Anxiety Disorders, 54, 57-64. doi:10.1016/j.janxdis.2018.01.006.
アメリカ、ノースカロライナ州のダーラム退役軍人省医療センター保健サービス研究開発部門、デューク大学医学部精神医学行動科学研究科、バージニア州フェアファックス郡のジョージ・メイソン大学心理学研究科の研究者による論文です。
〇序論と目的
社交不安症の人は、他者から拒絶される可能性を実際よりも高く感じるバイアスが強い傾向にあります。彼らは実際より高く見積もった拒絶される可能性を最小限に抑えようとするのを前提とした行為のため、社会的状況での関わりに困難があります。つまり、社交不安症の人達は社会的状況がチャレンジングだと感じることが多く、十分なパフォーマンスが発揮できません。
人はチャレンジングなシチュエーションで成功していると感じると、一般的にいって、その状況が楽しく、満足感を得ます。チャレンジングな状況での主観的成功経験はフローとして研究されています。フローとは、今やっていることに完全にのめり込んでいる状態のことで、フロー体験中は高いパフォーマンスが発揮できるとされます。フロー理論の提唱者はミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)教授です。
本研究では、社交不安症者の日常生活におけるフロー体験を調べることを目的としました。
〇方法
社交不安症の大人33人、彼らとマッチングした健康統制者34人が、ベースライン評定を受け、後に14日間にわたって経験サンプリングで日常生活での経験の報告を求めました。経験サンプリング法については、「飲酒後2~4時間以内に社交不安が低下する」や「社交不安が高い人は自宅で過ごすことが多い」という記事をご覧ください。ちなみに、フロー理論の提唱者、ミハイ・チクセントミハイ教授は経験サンプリング法の開発者でもあります。
〇結果
日常生活でのフロー体験の頻度は、社交不安症群でも健康統制群でも同程度でした。しかし、健康統制群よりも社交不安症群の方が、社会的状況でフローを体験しやすい結果となりました。
また、フロー状態になる可能性を予測する変数として、イベント中のポジティブ情動、イベントの重要性が検出されました。
〇コメント
フロー理論では、スキルに比してあまりにも挑戦レベルが低いと退屈になり、スキルに見合った挑戦でフロー状態になり、スキルよりも挑戦レベルが高すぎると、ストレスや不安が高まるとされます。
私の個人的な見解としては、健康統制群だと日常生活での社会的状況は退屈すぎるのかなと考えます。それで、社交不安症群は相対的に社会的状況でフローを経験しやすくなったのかもしれません。社交不安症の人達の社会的スキルは日常生活での社会的状況で最適で、権威のある人との面接など非日常的な社会的状況になると、困難をきたしやすいのかもしれません。これだと、健康統制群は、日常を超えた社会的状況でフロー体験が多くなる予感がしますね。
心理療法とフロー体験の関係も気になりますね。たとえば、場面緘黙症においては今よりもほんの少しだけレベルが高い状況に挑戦するという取り組み方がありますが、その時のフロー体験や介入成果との関連性はどうなのでしょうか?インターネット認知行動療法の副作用(Boettcher et al., 2014)の少なくとも一部は、挑戦レベルが高すぎることによるのではないか?という憶測も生じてきます。
なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。
今回は、社交不安症の人達は社会的状況でフロー状態になりやすいという研究です。
なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事1⇒バスの無料乗車券で高齢者の抑うつ、孤独感が低下、ボランティア等が増加
最近の記事2⇒初産年齢は母親だけでなく、父親からも遺伝する
Blalock, D. V. Kashdan, T. B., & McKnight, P. E. (2018). High risk, high reward: Daily perceptions of social challenge and performance in social anxiety disorder. Journal of Anxiety Disorders, 54, 57-64. doi:10.1016/j.janxdis.2018.01.006.
アメリカ、ノースカロライナ州のダーラム退役軍人省医療センター保健サービス研究開発部門、デューク大学医学部精神医学行動科学研究科、バージニア州フェアファックス郡のジョージ・メイソン大学心理学研究科の研究者による論文です。
〇序論と目的
社交不安症の人は、他者から拒絶される可能性を実際よりも高く感じるバイアスが強い傾向にあります。彼らは実際より高く見積もった拒絶される可能性を最小限に抑えようとするのを前提とした行為のため、社会的状況での関わりに困難があります。つまり、社交不安症の人達は社会的状況がチャレンジングだと感じることが多く、十分なパフォーマンスが発揮できません。
人はチャレンジングなシチュエーションで成功していると感じると、一般的にいって、その状況が楽しく、満足感を得ます。チャレンジングな状況での主観的成功経験はフローとして研究されています。フローとは、今やっていることに完全にのめり込んでいる状態のことで、フロー体験中は高いパフォーマンスが発揮できるとされます。フロー理論の提唱者はミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)教授です。
本研究では、社交不安症者の日常生活におけるフロー体験を調べることを目的としました。
〇方法
社交不安症の大人33人、彼らとマッチングした健康統制者34人が、ベースライン評定を受け、後に14日間にわたって経験サンプリングで日常生活での経験の報告を求めました。経験サンプリング法については、「飲酒後2~4時間以内に社交不安が低下する」や「社交不安が高い人は自宅で過ごすことが多い」という記事をご覧ください。ちなみに、フロー理論の提唱者、ミハイ・チクセントミハイ教授は経験サンプリング法の開発者でもあります。
〇結果
日常生活でのフロー体験の頻度は、社交不安症群でも健康統制群でも同程度でした。しかし、健康統制群よりも社交不安症群の方が、社会的状況でフローを体験しやすい結果となりました。
また、フロー状態になる可能性を予測する変数として、イベント中のポジティブ情動、イベントの重要性が検出されました。
〇コメント
フロー理論では、スキルに比してあまりにも挑戦レベルが低いと退屈になり、スキルに見合った挑戦でフロー状態になり、スキルよりも挑戦レベルが高すぎると、ストレスや不安が高まるとされます。
私の個人的な見解としては、健康統制群だと日常生活での社会的状況は退屈すぎるのかなと考えます。それで、社交不安症群は相対的に社会的状況でフローを経験しやすくなったのかもしれません。社交不安症の人達の社会的スキルは日常生活での社会的状況で最適で、権威のある人との面接など非日常的な社会的状況になると、困難をきたしやすいのかもしれません。これだと、健康統制群は、日常を超えた社会的状況でフロー体験が多くなる予感がしますね。
心理療法とフロー体験の関係も気になりますね。たとえば、場面緘黙症においては今よりもほんの少しだけレベルが高い状況に挑戦するという取り組み方がありますが、その時のフロー体験や介入成果との関連性はどうなのでしょうか?インターネット認知行動療法の副作用(Boettcher et al., 2014)の少なくとも一部は、挑戦レベルが高すぎることによるのではないか?という憶測も生じてきます。
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Comment
202
>社交不安症群の方が、社会的状況でフローを体験しやすい
この結果をどう捉えればよいのでしょうか?フローに入りやすいということは
良いことのように思えますが。フローに入った方が社交場を回避したいとは思わないようになるような気がしますが。
この結果をどう捉えればよいのでしょうか?フローに入りやすいということは
良いことのように思えますが。フローに入った方が社交場を回避したいとは思わないようになるような気がしますが。
203
Re: タイトルなし
お返事遅れて申し訳ありません。
フロー状態になると、社交場を回避したいとは思わなくなるという順序関係あるいは因果関係と、実際の社交場で現にフローに入るかどうかというのは別問題なのかもしれません。
あるいは、社交不安症の人達は社会的状況でのフローの予測という意味では、フローが低くなるはずだという誤った推定を下す傾向がある(それゆえ社交場を回避したいと思うかもしれません)が、実際にはフローを体験しやすいという現実とのギャップがある可能性もあります。
ただ、この論文はたしかアブストラクトだけしか読んでいないので、どのような議論が本文で展開されているのか把握していません(このあたりご容赦願います)。実際に読んでみると新たな発見があるかもしれませんね。
フロー状態になると、社交場を回避したいとは思わなくなるという順序関係あるいは因果関係と、実際の社交場で現にフローに入るかどうかというのは別問題なのかもしれません。
あるいは、社交不安症の人達は社会的状況でのフローの予測という意味では、フローが低くなるはずだという誤った推定を下す傾向がある(それゆえ社交場を回避したいと思うかもしれません)が、実際にはフローを体験しやすいという現実とのギャップがある可能性もあります。
ただ、この論文はたしかアブストラクトだけしか読んでいないので、どのような議論が本文で展開されているのか把握していません(このあたりご容赦願います)。実際に読んでみると新たな発見があるかもしれませんね。
206
私は社交不安障害ですが、一般人よりは社交場から特別な何かを得ようとしているのではないかと言う自覚はあります。
フロー状態になったような経験はほぼありませんが、社交場は特別です。
マーキュリー2さんは緘黙症は克服なさったのですか?
フロー状態になったような経験はほぼありませんが、社交場は特別です。
マーキュリー2さんは緘黙症は克服なさったのですか?
207
Re: タイトルなし
今は、「緘黙する場面が逆転(https://smetc.blog.fc2.com/blog-entry-83.html)」で書いた状態が継続中といった感じですかね。
幼少~大学初年度までは家の外で話せなかったのですが、それ以降は必要最小限のことは話せるようになっています。ですが、ある時期から家族の前で話すことができなくなりました。また、家族と一緒に出掛けると、たとえ家の外でも話せなくなります。
幼少~大学初年度までは家の外で話せなかったのですが、それ以降は必要最小限のことは話せるようになっています。ですが、ある時期から家族の前で話すことができなくなりました。また、家族と一緒に出掛けると、たとえ家の外でも話せなくなります。
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