「問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。
興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクトだけ読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げるつもりでしたが、全文読んでしまいました。
なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。
今回は、ネアンデルタール人DNAを多く持つ人は社交恐怖、抑うつ傾向、躁うつ傾向、自閉症特性が高いという研究です。
なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事1⇒心ここにあらずの人は刺激なしでも感覚が生じやすい
最近の記事2⇒ナルシストはマインドワンダリングの内容も自己愛色が強い
↑なんだかマインドワンダリング特集のような感じになってしまいました。マインドワンダリングとは、読書中にいつのまにか明日の予定を考えているなどのように、課題に無関連な思考のことです。
Geher, G., Holler, R., Chapleau, D., Fell, J., Gangemi, B., Gleason, M., Rolon, V., Shimkus, A., & Tauber, B. (2017). Using Personal Genome Technology and Psychometrics to Study the Personality of the Neanderthals. Human Ethology Bulletin, 32(3), 34-46. DOI:10.22330/heb/323/034-046.
アメリカのニューヨーク州立大学ニューパルツ校、ザビエル大学、ハートフォード大学の研究者による論文です。
〇背景と目的
およそ40,000年前に絶滅したと考えられているネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)は現生人類(ホモ・サピエンス)と交雑(セックス)していたとされています。アフリカ離散をした先祖のDNAのみ、ネアンデルタール人のDNAとの重なりが見いだされています。したがって、ネアンデルタール人と現生人類との交雑は、アフリカ以外の土地で行われたと考えられています。欧州やアジアの現生人類の子孫のゲノムの1%~4%はネアンデルタール人の先祖由来だと推定されています。
これまでネアンデルタール人の性格を推測する試みが行われてきました。それらは化石遺体や道具、DNA分布の地理的パターン等を手がかりにした解析でした。それらの結果は、ネアンデルタール人は知能(短期記憶等)やクリエイティビティが低く、攻撃的で、情動的変化に乏しい可能性を示唆してきました(ただ、空間的長期記憶力は高いと推測されています)。物理的、社会的、性的領域においてリスク行動が高いと考えられています。また、ネアンデルタール人は親類に対しては思いやりの心を持っていると考えられる一方で、集団サイズは8~10人と少なく、自閉症スペクトラムのような行動をとるとも考えられてもいます。
さて、現生人類のゲノム解析の結果と性格検査の結果を突き合わせて、ネアンデルタール人の性格特徴を推測することで、新しい知見が得られる可能性があります。そこをついたのが本研究です。
〇方法
参加者は国・地域の限定なしで、18~72歳の人で700人以上。しかし、各々の質問紙の回答者は約200人に限られていました(Nの最小値は87、最大値は210)。平均年齢は26.32歳(SD = 14.75)。白人ヨーロッパ系が89%。
遺伝子解析サービスを提供する企業、23andMe等によるゲノム解析で個人のネアンデルタール人指数(Neanderthal Quotient,NQ)を計算。ネアンデルタール人指数とは、ネアンデルタール人との遺伝的重なり(Neanderthal Overlap)のことです。
使用質問紙一覧(オンライン回答)
・ソシオセクシャル志向質問紙改訂版(Revised Sociosexual Orientation Inventory,SOI-R):ソシオセクシャリティとは、コミットメントのない関係性でも、性的活動をする傾向のことです。SOI-Rは行動、態度、願望の3因子構造。9項目4件法。
・リーボヴィッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale,LSAS):社交恐怖と社交回避の2因子を計測。24項目で4件法。
・10項目性格質問票(Ten Item Personality Inventory,TIPI):開放性、勤勉性、外向性、調和性、神経症傾向のビッグファイブ(性格の5因子)を計測。10項目5件法リッカート尺度。
・ケスラー心理的苦痛尺度(Kessler Psychological Distress Scale,K6?K10?):ここ30日間の気分(抑うつ傾向)を計測。10項目5件法。
・双極性スペクトラム診断尺度改訂版(Bipolar Spectrum Diagnostic Scale-Revised,BSDS-R):双極性傾向(躁うつ傾向)を計測。2選択式の20項目。
・自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient,AQ):自閉症傾向・自閉症特性を計測。社会的スキル、注意の切り替え、細部への注意、コミュニケーション、想像力の5因子構造、50項目4件法。
他に想像性検査を実施。雑誌「ニューヨーカー」の漫画2種類のキャプションを書き、それらから想像性を他の3人が0~4の間の5件法で評定し、平均値を算出(クロンバックのα係数 = .79)。
〇結果
遺伝子解析から算出したネアンデルタール人指数は、性格の5因子、社交恐怖、社交回避、抑うつ、双極性傾向、自閉症傾向、想像性と何の有意な相関関係も検出されませんでした(r = -.12~.13)。ただ、0次相関の方向性は研究者の仮説と一致するものだったため、さらなる分析を実施しました。
*研究者の仮説と一致する相関関係とは、有意でないものの、ネアンデルタール人指数と神経症傾向、社交恐怖、社交回避、抑うつ、双極性傾向、自閉症傾向が正の相関、ネアンデルタール人指数と外向性、調和性、想像性が負の相関だったことです。
さらなる分析では、各尺度の質問項目レベルで、ネアンデルタール人指数との相関関係を解析して行いました。ネアンデルタール人指数との相関があった項目で、それらの項目同士の相関もあった項目を集めました。つまり、各尺度でネアンデルタール人指数との相関が強かった項目だけをいいとこ取りしたわけです。
その結果、自閉症スペクトラム指数(AQ)のいいとこ取り尺度(選抜項目は5つ)のクロンバックα係数は.15と低いものの、他は以下の通りとなりました。
・双極性スペクトラム診断尺度改訂版(BSDS-R)のいいとこ取り尺度(選抜項目は2つ)のクロンバックα係数は.68
・リーボヴィッツ社交不安尺度(LSAS)の社交回避のいいとこ取り尺度(選抜項目は5つ)のα係数は.73
・ケスラー心理的苦痛尺度(K6?K10?)のいいとこ取り尺度(選抜項目は2つ)のα係数は.74
・ソシオセクシャル志向質問紙改訂版(SOI-R)のいいとこ取り尺度(選抜項目は2つ)のα係数は.82
・LSASの社交恐怖のいいとこ取り尺度(選抜項目は6つ)のα係数は.87
さて、ここからはいいとこ取り尺度とネアンデルタール人指数との相関分析です。
ネアンデルタール人指数との正の相関関係が有意だったのは、自閉症傾向(r = .23)、社交恐怖(r = .22)、躁うつ傾向(r = .22)、抑うつ傾向(r =.20)、ソシオセクシャリティ(r =.15)でした。ネアンデルタール人指数との負の相関関係が有意だったのは想像性(r = -.12)でした。ネアンデルタール人指数との相関関係が有意でなかったのは社交回避(r =. 09)でした。
回帰分析では、性別、年齢をモデルに含めても、ネアンデルタール人指数が社交恐怖、ソシオセクシャリティ、社交回避、抑うつ傾向、躁うつ傾向、自閉症傾向、想像性の内の5つの変数を予測しました。0次相関と相関の方向性が変わったアウトカム変数はありませんでした。
〇コメント
本研究は、我々のゲノムにあるネアンデルタール人の遺伝学的痕跡と質問紙調査の結果を突き合わせることで、ネアンデルタール人の性格を推定しようという試みです。その結果として、ネアンデルタール人は絶滅したのではなく、私たち人類のゲノムに痕跡があり、それがメンタル(ヘルス)に影響しているという内容になっています。
ネアンデルタール人指数は、社交恐怖、抑うつ傾向、躁うつ傾向、自閉症特性と有意に関連しました。ネアンデルタール人は血のつながりのない他個体と交わる必要性が低い社会で、現代人の社会とは異なります。この違いが、遺伝的にネアンデルタール人色の濃い人が現代社会への適応性が低いことにつながっているかもしれません。
ネアンデルタール人は集団サイズが小さく、親類以外とつながりを持つことが少なく、社会的経験が少ないので、社交恐怖(社交不安)が高いと予想されます。いいとこ取り尺度では、少なくとも部分的にはその予想と一致した結果が得られました。もちろん、社交恐怖はネアンデルタール人DNAだけに支配されるわけではないし、むしろ影響は小さいかもしれませんが。
なお、本研究から自閉症傾向や社交恐怖、躁うつ傾向、抑うつ傾向、ソシオセクシャリティ(乱交傾向)が高い人、想像性が低い人は、遺伝的にネアンデルタール人色が濃いとはいえないことに注意が必要です。あくまでも、ネアンデルタール人由来DNA色が高い人は自閉症傾向や社交恐怖、躁うつ傾向、抑うつ傾向、ソシオセクシャリティが高く、想像性が低い傾向にあるという話で、その逆ではありません。社交恐怖症状などの原因にはほかにも様々な要因がからんでおり、今回はその中の1つに、個々人が受け継ぐネアンデルタール人DNAがある(人がいる)というお話です。
研究の限界として論文で言及されていたのは、サンプルには北米の白人で教育水準が高い人が多かったことがあげられていました。世界には様々な民族がいるのに、白人ヨーロッパ系が89%というのもバイアスが強く、エスニシティの影響が検討できなかったとのことです。
行動データではなく、自記式質問紙の回答結果とネアンデルタール人指数との関連を解析したというのも、バイアスの影響を免れません。このため、将来の研究の方向性として行動データとネアンデルタール人指数との関連を調査する必要性が論文で言及されていました。他は相関解析では因果関係を立証できないという限界が議論されていました。
普通に分析したら、ネアンデルタール人指数と性格の5因子、社交恐怖、社交回避などに何の有意な相関関係も検出されなかったので、各尺度でネアンデルタール人指数との相関が強い項目だけを抜き出して改めて解析するという、考え方によってはずる賢いともいえる解析法をとっているのが何とも微妙なところです。ただ、ネアンデルタール人にはネアンデルタール人なりの心理・行動様式があり、たとえDNA痕跡との関連を調べるにせよ現代人と同じ質問項目(尺度)を使うのは無理があるという考え方もできます。また、自閉症スペクトラム指数(AQ)を別とすると、いいとこ取り尺度のクロンバックα係数はだいたい.70あたりかそれを越していたので、ある程度の信頼性は確保できていたようです。なお、α係数が大きい = 尺度の一次元性(等質性)があるとはいえず、内的一貫性の指標としての批判もあることを忘れてはいけません(岡田, 2015)。
なお、最近のゲノム解析研究では、西洋人の肌の色調、髪の毛の色、身長、睡眠パターン(朝型/夜型のクロノタイプ)、気分、喫煙は現代人に残存するネアンデルタール人DNAによって異なるとの結果(Dannemann & Kelso, 2017)が得られています。
〇引用文献(どちらも中途半端に本文を読みました)
Dannemann, M., & Kelso, J. (2017). The Contribution of Neanderthals to Phenotypic Variation in Modern Humans. American Journal of Human Genetics, 101(4), 578-589. doi:10.1016/j.ajhg.2017.09.010.
岡田謙介 (2015). 心理学と心理測定における信頼性について —Cronbachのα係数とは何なのか,何でないのか— 教育心理学年報, 54, 71-83. doi:10.5926/arepj.54.71.
(Okada, K. (2015). Reliability in Psychology and Psychological Measurement, with Focus on Cronbach's Alpha. Annual Report of Educational Psychology in Japan, 54, 71-83. doi:10.5926/arepj.54.71.)
なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。
今回は、ネアンデルタール人DNAを多く持つ人は社交恐怖、抑うつ傾向、躁うつ傾向、自閉症特性が高いという研究です。
なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事1⇒心ここにあらずの人は刺激なしでも感覚が生じやすい
最近の記事2⇒ナルシストはマインドワンダリングの内容も自己愛色が強い
↑なんだかマインドワンダリング特集のような感じになってしまいました。マインドワンダリングとは、読書中にいつのまにか明日の予定を考えているなどのように、課題に無関連な思考のことです。
Geher, G., Holler, R., Chapleau, D., Fell, J., Gangemi, B., Gleason, M., Rolon, V., Shimkus, A., & Tauber, B. (2017). Using Personal Genome Technology and Psychometrics to Study the Personality of the Neanderthals. Human Ethology Bulletin, 32(3), 34-46. DOI:10.22330/heb/323/034-046.
アメリカのニューヨーク州立大学ニューパルツ校、ザビエル大学、ハートフォード大学の研究者による論文です。
〇背景と目的
およそ40,000年前に絶滅したと考えられているネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)は現生人類(ホモ・サピエンス)と交雑(セックス)していたとされています。アフリカ離散をした先祖のDNAのみ、ネアンデルタール人のDNAとの重なりが見いだされています。したがって、ネアンデルタール人と現生人類との交雑は、アフリカ以外の土地で行われたと考えられています。欧州やアジアの現生人類の子孫のゲノムの1%~4%はネアンデルタール人の先祖由来だと推定されています。
これまでネアンデルタール人の性格を推測する試みが行われてきました。それらは化石遺体や道具、DNA分布の地理的パターン等を手がかりにした解析でした。それらの結果は、ネアンデルタール人は知能(短期記憶等)やクリエイティビティが低く、攻撃的で、情動的変化に乏しい可能性を示唆してきました(ただ、空間的長期記憶力は高いと推測されています)。物理的、社会的、性的領域においてリスク行動が高いと考えられています。また、ネアンデルタール人は親類に対しては思いやりの心を持っていると考えられる一方で、集団サイズは8~10人と少なく、自閉症スペクトラムのような行動をとるとも考えられてもいます。
さて、現生人類のゲノム解析の結果と性格検査の結果を突き合わせて、ネアンデルタール人の性格特徴を推測することで、新しい知見が得られる可能性があります。そこをついたのが本研究です。
〇方法
参加者は国・地域の限定なしで、18~72歳の人で700人以上。しかし、各々の質問紙の回答者は約200人に限られていました(Nの最小値は87、最大値は210)。平均年齢は26.32歳(SD = 14.75)。白人ヨーロッパ系が89%。
遺伝子解析サービスを提供する企業、23andMe等によるゲノム解析で個人のネアンデルタール人指数(Neanderthal Quotient,NQ)を計算。ネアンデルタール人指数とは、ネアンデルタール人との遺伝的重なり(Neanderthal Overlap)のことです。
使用質問紙一覧(オンライン回答)
・ソシオセクシャル志向質問紙改訂版(Revised Sociosexual Orientation Inventory,SOI-R):ソシオセクシャリティとは、コミットメントのない関係性でも、性的活動をする傾向のことです。SOI-Rは行動、態度、願望の3因子構造。9項目4件法。
・リーボヴィッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale,LSAS):社交恐怖と社交回避の2因子を計測。24項目で4件法。
・10項目性格質問票(Ten Item Personality Inventory,TIPI):開放性、勤勉性、外向性、調和性、神経症傾向のビッグファイブ(性格の5因子)を計測。10項目5件法リッカート尺度。
・ケスラー心理的苦痛尺度(Kessler Psychological Distress Scale,K6?K10?):ここ30日間の気分(抑うつ傾向)を計測。10項目5件法。
・双極性スペクトラム診断尺度改訂版(Bipolar Spectrum Diagnostic Scale-Revised,BSDS-R):双極性傾向(躁うつ傾向)を計測。2選択式の20項目。
・自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient,AQ):自閉症傾向・自閉症特性を計測。社会的スキル、注意の切り替え、細部への注意、コミュニケーション、想像力の5因子構造、50項目4件法。
他に想像性検査を実施。雑誌「ニューヨーカー」の漫画2種類のキャプションを書き、それらから想像性を他の3人が0~4の間の5件法で評定し、平均値を算出(クロンバックのα係数 = .79)。
〇結果
遺伝子解析から算出したネアンデルタール人指数は、性格の5因子、社交恐怖、社交回避、抑うつ、双極性傾向、自閉症傾向、想像性と何の有意な相関関係も検出されませんでした(r = -.12~.13)。ただ、0次相関の方向性は研究者の仮説と一致するものだったため、さらなる分析を実施しました。
*研究者の仮説と一致する相関関係とは、有意でないものの、ネアンデルタール人指数と神経症傾向、社交恐怖、社交回避、抑うつ、双極性傾向、自閉症傾向が正の相関、ネアンデルタール人指数と外向性、調和性、想像性が負の相関だったことです。
さらなる分析では、各尺度の質問項目レベルで、ネアンデルタール人指数との相関関係を解析して行いました。ネアンデルタール人指数との相関があった項目で、それらの項目同士の相関もあった項目を集めました。つまり、各尺度でネアンデルタール人指数との相関が強かった項目だけをいいとこ取りしたわけです。
その結果、自閉症スペクトラム指数(AQ)のいいとこ取り尺度(選抜項目は5つ)のクロンバックα係数は.15と低いものの、他は以下の通りとなりました。
・双極性スペクトラム診断尺度改訂版(BSDS-R)のいいとこ取り尺度(選抜項目は2つ)のクロンバックα係数は.68
・リーボヴィッツ社交不安尺度(LSAS)の社交回避のいいとこ取り尺度(選抜項目は5つ)のα係数は.73
・ケスラー心理的苦痛尺度(K6?K10?)のいいとこ取り尺度(選抜項目は2つ)のα係数は.74
・ソシオセクシャル志向質問紙改訂版(SOI-R)のいいとこ取り尺度(選抜項目は2つ)のα係数は.82
・LSASの社交恐怖のいいとこ取り尺度(選抜項目は6つ)のα係数は.87
さて、ここからはいいとこ取り尺度とネアンデルタール人指数との相関分析です。
ネアンデルタール人指数との正の相関関係が有意だったのは、自閉症傾向(r = .23)、社交恐怖(r = .22)、躁うつ傾向(r = .22)、抑うつ傾向(r =.20)、ソシオセクシャリティ(r =.15)でした。ネアンデルタール人指数との負の相関関係が有意だったのは想像性(r = -.12)でした。ネアンデルタール人指数との相関関係が有意でなかったのは社交回避(r =. 09)でした。
回帰分析では、性別、年齢をモデルに含めても、ネアンデルタール人指数が社交恐怖、ソシオセクシャリティ、社交回避、抑うつ傾向、躁うつ傾向、自閉症傾向、想像性の内の5つの変数を予測しました。0次相関と相関の方向性が変わったアウトカム変数はありませんでした。
〇コメント
本研究は、我々のゲノムにあるネアンデルタール人の遺伝学的痕跡と質問紙調査の結果を突き合わせることで、ネアンデルタール人の性格を推定しようという試みです。その結果として、ネアンデルタール人は絶滅したのではなく、私たち人類のゲノムに痕跡があり、それがメンタル(ヘルス)に影響しているという内容になっています。
ネアンデルタール人指数は、社交恐怖、抑うつ傾向、躁うつ傾向、自閉症特性と有意に関連しました。ネアンデルタール人は血のつながりのない他個体と交わる必要性が低い社会で、現代人の社会とは異なります。この違いが、遺伝的にネアンデルタール人色の濃い人が現代社会への適応性が低いことにつながっているかもしれません。
ネアンデルタール人は集団サイズが小さく、親類以外とつながりを持つことが少なく、社会的経験が少ないので、社交恐怖(社交不安)が高いと予想されます。いいとこ取り尺度では、少なくとも部分的にはその予想と一致した結果が得られました。もちろん、社交恐怖はネアンデルタール人DNAだけに支配されるわけではないし、むしろ影響は小さいかもしれませんが。
なお、本研究から自閉症傾向や社交恐怖、躁うつ傾向、抑うつ傾向、ソシオセクシャリティ(乱交傾向)が高い人、想像性が低い人は、遺伝的にネアンデルタール人色が濃いとはいえないことに注意が必要です。あくまでも、ネアンデルタール人由来DNA色が高い人は自閉症傾向や社交恐怖、躁うつ傾向、抑うつ傾向、ソシオセクシャリティが高く、想像性が低い傾向にあるという話で、その逆ではありません。社交恐怖症状などの原因にはほかにも様々な要因がからんでおり、今回はその中の1つに、個々人が受け継ぐネアンデルタール人DNAがある(人がいる)というお話です。
研究の限界として論文で言及されていたのは、サンプルには北米の白人で教育水準が高い人が多かったことがあげられていました。世界には様々な民族がいるのに、白人ヨーロッパ系が89%というのもバイアスが強く、エスニシティの影響が検討できなかったとのことです。
行動データではなく、自記式質問紙の回答結果とネアンデルタール人指数との関連を解析したというのも、バイアスの影響を免れません。このため、将来の研究の方向性として行動データとネアンデルタール人指数との関連を調査する必要性が論文で言及されていました。他は相関解析では因果関係を立証できないという限界が議論されていました。
普通に分析したら、ネアンデルタール人指数と性格の5因子、社交恐怖、社交回避などに何の有意な相関関係も検出されなかったので、各尺度でネアンデルタール人指数との相関が強い項目だけを抜き出して改めて解析するという、考え方によってはずる賢いともいえる解析法をとっているのが何とも微妙なところです。ただ、ネアンデルタール人にはネアンデルタール人なりの心理・行動様式があり、たとえDNA痕跡との関連を調べるにせよ現代人と同じ質問項目(尺度)を使うのは無理があるという考え方もできます。また、自閉症スペクトラム指数(AQ)を別とすると、いいとこ取り尺度のクロンバックα係数はだいたい.70あたりかそれを越していたので、ある程度の信頼性は確保できていたようです。なお、α係数が大きい = 尺度の一次元性(等質性)があるとはいえず、内的一貫性の指標としての批判もあることを忘れてはいけません(岡田, 2015)。
なお、最近のゲノム解析研究では、西洋人の肌の色調、髪の毛の色、身長、睡眠パターン(朝型/夜型のクロノタイプ)、気分、喫煙は現代人に残存するネアンデルタール人DNAによって異なるとの結果(Dannemann & Kelso, 2017)が得られています。
〇引用文献(どちらも中途半端に本文を読みました)
Dannemann, M., & Kelso, J. (2017). The Contribution of Neanderthals to Phenotypic Variation in Modern Humans. American Journal of Human Genetics, 101(4), 578-589. doi:10.1016/j.ajhg.2017.09.010.
岡田謙介 (2015). 心理学と心理測定における信頼性について —Cronbachのα係数とは何なのか,何でないのか— 教育心理学年報, 54, 71-83. doi:10.5926/arepj.54.71.
(Okada, K. (2015). Reliability in Psychology and Psychological Measurement, with Focus on Cronbach's Alpha. Annual Report of Educational Psychology in Japan, 54, 71-83. doi:10.5926/arepj.54.71.)
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Comment
195
ネアンデルタール
ありえないですね。アフリカ系アメリカ人には躁うつ病も統合失調も多い。南アフリカにも精神疾患はみられます。
自閉症=ネアンデルタール。双極性障害、統合失調=ホモ・サピエンスでしょう
自閉症=ネアンデルタール。双極性障害、統合失調=ホモ・サピエンスでしょう
196
Re: ネアンデルタール
コメントありがとうございます。「アフリカ系アメリカ人には躁うつ病も統合失調も多い」とのことですが、何と比較して多いのでしょうか?出典を明示していただけると助かります。また、ネアンデルタール人由来DNAはアフリカ以外の地域で見いだされているのですが、それと「ネアンデルタール人DNAを多く持つ人は社交恐怖、抑うつ傾向、躁うつ傾向、自閉症特性が高い」とを合わせても、南アフリカでの精神疾患の多寡は関係ないと考えます。というのも、この場合、あくまでネアンデルタール人由来DNAがある人、アフリカ以外の地域の人の精神疾患/症状についてのお話で、南アフリカの人の精神疾患/症状についてはまた別途検討すべき問題だからです。
197
aaa
"south africa mental illness"などで調べてみてください。自傷行為など、双極性や統合失調にかかわる問題が出てきます。そういう状態にはネアンデルタールは関連しないということです。african american schizophreniaなども調べて見てください。黒人の統合失調者は白人の3倍規模です。双極でいえばマライアもプリンスもラッパーの人も診断うけましたね。双極は統合失調と近縁の疾患です
198
Re: aaa
お返事ありがとうございます。また、私からのお返事が遅れてしまい申し訳ありません。できれば具体的な文献をあげていただきたかったのですが。。。
たしかにアフリカ系の人のメンタルヘルスの問題は深刻なようです。ただ、貴殿の主張は、 精神障害にはネアンデルタール以外にも多様な要因が関わっているということを考えに入れない場合にしか当てはまらないように思います。
なるほど、精神障害の発症、維持にネアンデルタールだけが関わっている、あるいはネアンデルタールの影響力が他の要因より絶大に大きいのならば、あなたの言い分の方が正しそうです。しかし、実際にはアフリカ系の方がネアンデルタール系以外のリスク要因が多いあるいはリスク要因の影響を受けやすい、非アフリカ系の人におけるネアンデルタール系の要因は効果の大きさとしては低いという見方もできます。
したがって、アフリカ系の人に双極性障害や統合失調症の人が多いことを根拠に双極性障害や統合失調症にネアンデルタールが関与しないと断言するのは無理があります。たしかに、私のブログで紹介した論文だけではエビデンスが弱すぎますが、かといって仮説を全否定することもできないというのが私の現時点での意見です。
199
統合失調率
https://en.wikipedia.org/wiki/Epidemiology_of_schizophreniaサブサハラのアフリカ人にネアンデルタール遺伝子がないのは知ってますか?そういう地域でも高い率で統合失調が見られます。医療が発達してない部分で未診断などが多いと思いますが。ネアンデルタールの因子は統合失調には(あまり)関連しないという結論にはなりませんか?
200
Re: 統合失調率
またまた、お返事が遅くなってしまい申し訳ありません。
サハラ以南のアフリカ人にネアンデルタール遺伝子がないとされていることは知っています(ただ、正確な言い方をすると、 サハラ以南のアフリカ人にネアンデルタール遺伝子が「ない」ではなく「発見されていない」です。「ない」ことを証明することは事実上不可能ですから)。で、サハラ以南で統合失調症の発症率が高いから、 ネアンデルタールの因子は統合失調には(あまり)関連しないと。
ネアンデルタール人遺伝子の有無以外のすべての条件が サハラ以南アフリカ系とそれ以外で同一なら、貴殿の言い分が正しいです。しかし、交絡因子の存在を忘れておられるようです。つまり、サハラ以南アフリカ系において統合失調症の発症率が高いのは、 ネアンデルタール人遺伝子の有無とは全く関係のない別の要因の有無、強さが非サハラ以南アフリカ系と異なることによるという可能性です。
このことを検証するためには、先にも述べたように、 ネアンデルタール人遺伝子の有無以外のすべての条件が サハラ以南アフリカ系とそれ以外で同一であることが必要です。しかし、現実にはそれは不可能に近いので統計解析で交絡因子の統制や調整を行うのです(動物実験なら条件を揃えるのはヒトよりは簡単ですが)。
交絡因子の影響を取り除かない限りはあなたの意見は成立し得ない、というのが私の見解です。
サハラ以南のアフリカ人にネアンデルタール遺伝子がないとされていることは知っています(ただ、正確な言い方をすると、 サハラ以南のアフリカ人にネアンデルタール遺伝子が「ない」ではなく「発見されていない」です。「ない」ことを証明することは事実上不可能ですから)。で、サハラ以南で統合失調症の発症率が高いから、 ネアンデルタールの因子は統合失調には(あまり)関連しないと。
ネアンデルタール人遺伝子の有無以外のすべての条件が サハラ以南アフリカ系とそれ以外で同一なら、貴殿の言い分が正しいです。しかし、交絡因子の存在を忘れておられるようです。つまり、サハラ以南アフリカ系において統合失調症の発症率が高いのは、 ネアンデルタール人遺伝子の有無とは全く関係のない別の要因の有無、強さが非サハラ以南アフリカ系と異なることによるという可能性です。
このことを検証するためには、先にも述べたように、 ネアンデルタール人遺伝子の有無以外のすべての条件が サハラ以南アフリカ系とそれ以外で同一であることが必要です。しかし、現実にはそれは不可能に近いので統計解析で交絡因子の統制や調整を行うのです(動物実験なら条件を揃えるのはヒトよりは簡単ですが)。
交絡因子の影響を取り除かない限りはあなたの意見は成立し得ない、というのが私の見解です。
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