批判も称賛も怖い人が最も重篤な内在化問題を示す | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(論文要旨)、調査方法、調査結果、および考察を少しだけ読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は、批判と称賛(称讃)の両方とも怖い人が最も重篤な抑うつ症状や社交不安症状、不安感受性、安全希求行動を示すという研究です。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒痛みに耐えられる人は社会的ネットワークが広い
↑「恋人がいる人は社会的なサポートネットワークが狭い」でご紹介した文献と同様、ダンバー数(ダンバー・ナンバー)の提唱者として名を馳せるロビン・ダンバー教授が最終著者の論文です。ダンバー数とは人が付き合いを維持できる人数の上限値のことです。150人ぐらいが限度だと言われています。

Lipton, M. F., Weeks, J. W., & De Los Reyes, A. (2016). Individual differences in fears of negative versus positive evaluation: Frequencies and clinical correlates. Personality & Individual Differences, 98, 193-198. doi:10.1016/j.paid.2016.03.072.

アメリカ合衆国メリーランド大学カレッジパーク校心理学教室、アセンズのオハイオ大学心理学教室不安評定治療センターの研究者による論文です。

○方法

データ解析に用いたのは大学生375人のデータ。平均年齢19.63歳(SD = 2.81)。女子大生が289人(77.1%)。

・使用質問紙一覧:すべて自記式尺度でオンライン調査
1.否定的評価恐怖尺度短縮版(Brief Fear of Negative Evaluation scale,BFNE):否定的評価恐怖(ネガティブ評価恐怖)を計測
2.肯定的評価恐怖尺度(Fear of Positive Evaluation Scale,FPES):肯定的評価恐怖(ポジティブ評価恐怖)を計測
3.社会的交流不安尺度(Social Interaction Anxiety Scale,SIAS):社交不安(社会的交流の開始と維持に関する不安)を計測
4.社交恐怖尺度(Social Phobia Scale,SPS):社交不安(人前で話す、字を書く、食事をするなどで他者から判断されることへの恐怖と不安)を計測
5.ベック式抑うつ評価尺度第2版(Beck Depression Inventory-II,BDI-II)修正版:抑うつ症状を計測(オリジナル版の自殺念慮/希死念慮の質問項目は省略)
6.不安感受性尺度第3版(Anxiety Sensitivity Index-3,ASI-3):不安感受性を計測(不安感受性とは不安症状に関する恐怖のことで、主に認知、身体、社会という3側面から成ります)
7.繊細回避頻度検査(Subtle Avoidance Frequency Examination,SAFE):安全希求行動(安全確保行動・安全保障行動)の計測(安全希求行動とは短期的には不安や恐怖を低減させる行動になるのですが、長期的には過剰な不安や恐怖が不合理であることを学習する機会を奪うので、結局不安・恐怖を維持することになる行動のことです)
8.希有尺度(InFrequency Scale,IFS):調査にいいかげんに回答する傾向を計測

○結果

否定的評価恐怖(FNE)と肯定的評価恐怖(FPE)がともに低いのは全体の58.4%、FNEが高くてFPEが低いのは14.4%、FNEが低くてFPEが高いのは14.9%、FNEとFPEがともに高いのが12.3%を占めました。

*FNE・FPEの高低は尺度得点トップ25%を境に決定しました。つまり、得点トップ25%が否定的(肯定的)評価恐怖が高い人達、トップ25%に入らなかった残りの75%が評価恐怖が低い人達としました。

内在化問題のすべて(SIAS/SPSの社交不安・不安感受性・安全希求行動・抑うつ症状)において、以下のような関係が見いだされました。

内在化問題が高い順に、FNEとFPEがともに高い群>FNEが高いがFPEが低い群・FNEが低いがFPEが高い群>FNEとFPEがともに低い群

希有尺度(IFS)の結果によると、375人の大学生の内、34人がいいかげんな回答者だと判断されました。いいかげんな回答者の存在を考慮しても同様の結果になりました。

○コメント

以上の結果から、批判と称賛の両方が怖い人は、どちらもそんなに怖くない人やどちらか一方だけを強く怖がる人よりも社交不安や不安感受性、安全希求行動、抑うつ症状が重篤だと言えます。また、批判か称賛のどちらか片方だけに強い恐怖心を抱く人は、どちらもそんなに怖くない人よりも内在化問題が深刻でした。

ただ、女子大生が77.1%だったので、少しサンプルに偏りがあるのは否めません。また、今回の調査は断面研究(横断研究)だったので、時間的関係(肯定的評価恐怖→抑うつ症状など)については不明のままです。なので、縦断研究が必要です。

肯定的評価恐怖(褒められ恐怖)研究一覧
緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?
社交不安→ポジティブ評価恐怖尺度得点が高い→注意バイアス
日本語版Fear of Positive Evaluation Scale(FPES)が出版されました
解釈バイアス、肯定的評価恐怖、社交不安の関係

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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