行動抑制の概念 by Jerome Kagan | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

勉強を兼ねて『Extreme Fear, Shyness, and Social Phobia: Origins, Biological Mechanisms, and Clinical Outcomes (Series in Affective Science)』という書籍を読んでいます。その内容について少しずつ書き記していこうと思います。今回は発達心理学者Jerome Kagan氏ご執筆の「行動抑制の概念(part1:幼少期の恐怖とシャイネス―概念的、生物学的、発達学的考察の1節)」です。




○行動抑制とはなんぞや

行動抑制とは見慣れぬ人や場所、物などに対して不安を抱き、警戒し、回避する行動パターンのことです。行動抑制だからといってかならずしもシャイだとは限らず、またシャイだからといって抑制気質(行動抑制)があるとは限りません。

行動抑制の研究の端緒はFels財団(フィラデルフィア)が運営していた1929年創設のFels研究所(オハイオ州イエロースプリングス)です。Fels研究所は人間の生涯にわたる身体的、心理的側面を研究しています。この研究所が1929年から1930年後半生まれの子どもを追跡調査したことが事の始まりです。ただ、この当時は行動抑制という概念はまだなかったようです。

○行動抑制の特徴

・幼児期に抑制気質があった場合、後にシャイ、慎重、内向的になりやすい。

・行動抑制だったすべての幼児が内向的になるわけではないが、外交性が高くなることは非常に稀。

・双生児を互いに比較した研究によれば抑制気質の遺伝係数は約50%。

・行動抑制を示す子どもは交感神経が活発で、安静状態のときの脳波が行動抑制がない子どもとは異なる。

・不快な音(刺激)などに手足をばたつかせる乳児は後に行動抑制を示す恐れがある。ただし、このような乳児全てが後に行動抑制になるわけではない。

・乳児の頃に不快な刺激に過剰反応し、後に不安が高くなる者は血圧が高い、顔が細いなどの特徴がある。顔の幅についてはマウスでも傍証的な証拠があるそうだ。つまり、過剰反応する乳児の中でも、後々不安症状を示す者とそうでない者には生物学的な差がある。

・不快な刺激に過剰反応する乳児は誕生前、つまり胎児の頃から心拍数が高い。

ただ、データは20世紀後半の研究に基づいており、少し古い感は否めません。最近の知見を把握するにはレビュー論文等を読む必要があります。また、主に欧米人を中心にした議論が展開されているので、アジア人に同じことが言えるかどうかも分かりません。ただ、シャイネスや社会不安、行動抑制についての学際的研究を統合している点で本書は優れているので、多少欠点はあっても読む価値は十分あります。

○緘黙と行動抑制

緘黙に行動抑制が関わっているとの考えがあります。このような意見を吟味するためには、緘黙児に行動抑制があるかどうかだけでなく、その前兆の有無を調べる必要があります。緘黙児をもつ親御さんに聞いてみたいものです。「あなたのお子さんは満1歳の時に手足をばたつかせることがよくありましたか?それはどのような状況でしたか?顔は細長いですか?見慣れぬ人、場所に積極的に関わるタイプですか?」と。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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