「問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。
2015.05.15
興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)、実験方法、実験結果を読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。
なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。
今回は実験的に恐怖を高めると幾何学的な絵画作品の評価が高まるという研究です。
なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事⇒殺人幻想を抱いたことのある大学生は67%(芬蘭土)
↑芬蘭土とはフィンランドの漢字表記のことです。男性の殺人ファンタジーの標的は赤の他人や知人、友人、有名人が多く、女性で多かったのは家族や以前のパートナー、現在のパートナー、ストーカーなど、様々なことが分かっています(凶器として男性は銃火器を使いたがるが、女性は鈍器が特徴的など)。
Eskine, K. J., Kacinik, N. A., & Prinz, J. J. (2012). Stirring images: Fear, not happiness or arousal, makes art more sublime. Emotion, 12(5), 1071-1074. doi:10.1037/a0027200.
アメリカのルイジアナ州ロヨラ大学ニューオーリンズ校心理学部、 ニューヨーク市立大学ブルックリン校、ニューヨーク市立大学大学院センターの研究者らによる論文です。
○方法
85人の大学生が実験に協力。女子大生が47人。5つの実験条件(恐怖、幸福、高生理的覚醒、低生理的覚醒、コントロール)にランダムに割り当て(それぞれ17人ずつ)。
恐怖と幸福は怖いビデオ、ハッピーなビデオで高めました。動画はYouTubeのもので、14秒のビデオ映像。実験後に被験者に尋ねると、ビデオがそれぞれ予定した情動を喚起していることが確認されました。また、引き起こされた恐怖レベルと幸福レベルは同程度でした。
高生理的覚醒群の被験者は挙手跳躍運動(jumping jack)を30秒間、低生理的覚醒群の被験者は同じ挙手跳躍運動を15秒間実施。統制群は何もせず、座位姿勢を維持。手跳躍運動とは気をつけの姿勢から、ジャンプをしながら足を広げ、頭の上で両手を叩き、また元に戻す動作を反復する運動のことです。座位姿勢とは座ったままの状態でいることです。
ビデオを鑑賞したり、運動をしたり、座ったままでいた後に4つの絵画を見せました。絵画はエル・リシツキーというロシア出身の建築家、写真家、グラフィックデザイナーの作品を用いました。ググって画像を検索すると絵画というよりも幾何学的な模様に近い作品が多くヒットしますね。これは研究者が実験のために意図的に選んだものです。
絵画の呈示時間は30秒で、その間に被験者は絵画を5件法で評価。評価は「元気づける」「刺激的な」「おもしろくない」「興奮する」「感動する」「退屈な」「興味がわかない」「奮起する」「印象的な」「忘れやすい」の10項目。主成分分析の結果、「印象的な」は除外し、残りの9項目で崇高さ得点を算出。
生理的覚醒度やビデオ視聴後の恐怖・幸福レベルの評価も5件法。
○結果
生理的覚醒水準が高くなった順に高生理的覚醒群・恐怖群・幸福群>統制群・低生理的覚醒群。
崇高得点が高くなった順に恐怖群>高生理的覚醒群・低生理的覚醒群・幸福群・統制群。
生理的覚醒度と崇高得点に正の相関関係(r=.322)。
*重回帰分析では恐怖は有意に崇高得点を予測せず、代わりに生理的覚醒が有意傾向で崇高得点を予測しました。ただ、論文著者によればこれは恐怖群での評定のばらつきが小さかったためと考えられるそうです。
○コメント
高生理的覚醒群と恐怖群と幸福群の間に生理的覚醒レベルの違いが検出されなかったことから、恐怖による崇高評価の高まりは生理的覚醒だけでは説明できないと考えられます。 もちろん生理的覚醒度と崇高評価に相関関係があったことから生理的覚醒も何らかの関係がある可能性がありますが、論文著者は恐怖の影響を推しているようです。
そういえば、(元)場面緘黙症の人は芸術分野に秀でているというような話もネットにありますね。事実、海外では(元?)場面緘黙のアーティストの方が活躍されています。また、日本イラストレーター協会会員で創作家、ほわん絵描き(イラストレーター)のらせんゆむさんは、ご自身の場面緘黙体験談を『私はかんもくガール: しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常(合同出版)』にという本にしてまとめておられます。
もっとも、芸術ができる人が1人、「私絵が得意なんです!」といえば、「あっ。私も絵が得意なんだ。一緒だね」という反応をする人の方が「私は絵が苦手だけどなあ」という反応を返す人よりも多くなることが予想されますし、記憶に残りやすかったり、思い出しやすい可能性があります(思い出しやすさが判断にバイアスをかけることを行動経済学の専門用語で利用可能性ヒューリスティックといいます)。したがって、(元)場面緘黙症の人が芸術分野を得意にしているかどうかは体系的な調査がされない限り不明なので、ネット上の噂話に惑わされないようにする必要があります。また、たとえ調査の結果、(元)場面緘黙症の人は芸術が得意だということになったとしてもそれはあくまで「平均値」であることに注意する必要があります。
なお、本研究はあくまでも幾何学的な絵画作品の評価への影響を調べたものです。したがって、他の種類の絵画の評価がどうなるかは不明です。
なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。
今回は実験的に恐怖を高めると幾何学的な絵画作品の評価が高まるという研究です。
なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事⇒殺人幻想を抱いたことのある大学生は67%(芬蘭土)
↑芬蘭土とはフィンランドの漢字表記のことです。男性の殺人ファンタジーの標的は赤の他人や知人、友人、有名人が多く、女性で多かったのは家族や以前のパートナー、現在のパートナー、ストーカーなど、様々なことが分かっています(凶器として男性は銃火器を使いたがるが、女性は鈍器が特徴的など)。
Eskine, K. J., Kacinik, N. A., & Prinz, J. J. (2012). Stirring images: Fear, not happiness or arousal, makes art more sublime. Emotion, 12(5), 1071-1074. doi:10.1037/a0027200.
アメリカのルイジアナ州ロヨラ大学ニューオーリンズ校心理学部、 ニューヨーク市立大学ブルックリン校、ニューヨーク市立大学大学院センターの研究者らによる論文です。
○方法
85人の大学生が実験に協力。女子大生が47人。5つの実験条件(恐怖、幸福、高生理的覚醒、低生理的覚醒、コントロール)にランダムに割り当て(それぞれ17人ずつ)。
恐怖と幸福は怖いビデオ、ハッピーなビデオで高めました。動画はYouTubeのもので、14秒のビデオ映像。実験後に被験者に尋ねると、ビデオがそれぞれ予定した情動を喚起していることが確認されました。また、引き起こされた恐怖レベルと幸福レベルは同程度でした。
高生理的覚醒群の被験者は挙手跳躍運動(jumping jack)を30秒間、低生理的覚醒群の被験者は同じ挙手跳躍運動を15秒間実施。統制群は何もせず、座位姿勢を維持。手跳躍運動とは気をつけの姿勢から、ジャンプをしながら足を広げ、頭の上で両手を叩き、また元に戻す動作を反復する運動のことです。座位姿勢とは座ったままの状態でいることです。
ビデオを鑑賞したり、運動をしたり、座ったままでいた後に4つの絵画を見せました。絵画はエル・リシツキーというロシア出身の建築家、写真家、グラフィックデザイナーの作品を用いました。ググって画像を検索すると絵画というよりも幾何学的な模様に近い作品が多くヒットしますね。これは研究者が実験のために意図的に選んだものです。
絵画の呈示時間は30秒で、その間に被験者は絵画を5件法で評価。評価は「元気づける」「刺激的な」「おもしろくない」「興奮する」「感動する」「退屈な」「興味がわかない」「奮起する」「印象的な」「忘れやすい」の10項目。主成分分析の結果、「印象的な」は除外し、残りの9項目で崇高さ得点を算出。
生理的覚醒度やビデオ視聴後の恐怖・幸福レベルの評価も5件法。
○結果
生理的覚醒水準が高くなった順に高生理的覚醒群・恐怖群・幸福群>統制群・低生理的覚醒群。
崇高得点が高くなった順に恐怖群>高生理的覚醒群・低生理的覚醒群・幸福群・統制群。
生理的覚醒度と崇高得点に正の相関関係(r=.322)。
*重回帰分析では恐怖は有意に崇高得点を予測せず、代わりに生理的覚醒が有意傾向で崇高得点を予測しました。ただ、論文著者によればこれは恐怖群での評定のばらつきが小さかったためと考えられるそうです。
○コメント
高生理的覚醒群と恐怖群と幸福群の間に生理的覚醒レベルの違いが検出されなかったことから、恐怖による崇高評価の高まりは生理的覚醒だけでは説明できないと考えられます。 もちろん生理的覚醒度と崇高評価に相関関係があったことから生理的覚醒も何らかの関係がある可能性がありますが、論文著者は恐怖の影響を推しているようです。

そういえば、(元)場面緘黙症の人は芸術分野に秀でているというような話もネットにありますね。事実、海外では(元?)場面緘黙のアーティストの方が活躍されています。また、日本イラストレーター協会会員で創作家、ほわん絵描き(イラストレーター)のらせんゆむさんは、ご自身の場面緘黙体験談を『私はかんもくガール: しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常(合同出版)』にという本にしてまとめておられます。
もっとも、芸術ができる人が1人、「私絵が得意なんです!」といえば、「あっ。私も絵が得意なんだ。一緒だね」という反応をする人の方が「私は絵が苦手だけどなあ」という反応を返す人よりも多くなることが予想されますし、記憶に残りやすかったり、思い出しやすい可能性があります(思い出しやすさが判断にバイアスをかけることを行動経済学の専門用語で利用可能性ヒューリスティックといいます)。したがって、(元)場面緘黙症の人が芸術分野を得意にしているかどうかは体系的な調査がされない限り不明なので、ネット上の噂話に惑わされないようにする必要があります。また、たとえ調査の結果、(元)場面緘黙症の人は芸術が得意だということになったとしてもそれはあくまで「平均値」であることに注意する必要があります。
なお、本研究はあくまでも幾何学的な絵画作品の評価への影響を調べたものです。したがって、他の種類の絵画の評価がどうなるかは不明です。
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