子どもの行動チェックリスト(CBCL)に場面緘黙!? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

2012年4月にクリスタル・ゲートウェイ・マリオットホテル(バージニア州)で開催された第32回米国不安・鬱学会(Anxiety and Depression Association of America)において場面緘黙の下位尺度を子どもの行動チェックリスト(Child Behavior Checklist:CBCL)に追加しよう!という研究が発表されました。

発表はアライアント国際大学/カリフォルニア大学サンディエゴ校精神医学教室のCarla A. Hitchcock氏による『場面緘黙のCBCL下位尺度の開発:アメリカ合衆国とシンガポールのデータから(Developing a CBCL Subscale for Selective Mutism: Data From the United States and Singapore)』という題名です。

Carla A. Hitchcock氏は場面緘黙症の研究や治療で有名なエリザ・シポンブラム氏(米国場面緘黙症研究治療センターのSMART-Center理事長兼所長)と一緒にお名前が論文に掲載されることがあります。

タイトルしか分からないものの、それを字義通り解釈すれば、あのCBCL内に場面緘黙専用の下位尺度(サブスケール)が組み入れられることになります。もし実現すればとんでもないことです。ただし、現時点では具体的な質問項目は不明です。

○子どもの行動チェックリスト(CBCL)に場面緘黙が追加されたらすごい理由

心理学や精神医学の論文を読んだことのない方にとっては子どもの行動チェックリスト(CBCL)といってもピンとこないかもしれませんが、この質問票は心理学や精神医学の分野、特に発達心理学・発達精神医学/児童精神医学の分野では非常に有名で、使用頻度が多い尺度です。臨床現場や小児科でも使用されることがあるようです。

しかも、CBCLは日本語にも翻訳され、使用されています。

なので、もしもCBCLに場面緘黙が入ったら大きな事件です。CBCLに場面緘黙の項目が入ったら、場面緘黙に対する認知度や理解度が向上すること間違いなしです(少し誇張)。

○CBCLは場面緘黙質問票の作成に使用されたことがあり、緘黙症・行動抑制の研究にも使われる

場面緘黙質問票(SMQ)の作成の際にも増分妥当性(incremental validity)をチェックするためにCBCLが使われました(Bergman et al., 2008)。Bergman et al.(2008)によると、CBCLの不安/うつ下位尺度で場面緘黙症の診断が予測できましたが、SMQの方がCBCLの下位尺度よりも診断を予測することが可能でした。

その他の緘黙論文にもCBCLが登場することがあります。行動抑制の研究にも母親からの報告を求める形で使われることがあります(例:Fox et al., 2001)。

なお、CBCLだけで場面緘黙症の診断を下すことは不適当なため、場面緘黙症ではなく、場面緘黙としました。

○子どもの行動チェックリストとは何ぞや?

国立特殊教育総合研究所の資料(武田他, 2006)によれば、CBCLとは「幼児期から思春期にいたる子どもの情緒や行動を包括的に評価する質問紙として,米国Vernmont大学のAchenbackが開発した」調査票のことです。保護者が記入します。

CBCLには2-3歳の幼児版(CBCL/2-3)と4~18歳の学齢児版(CBCL/4-18)の2種類があります。単なる質問項目の羅列ではなく、自由記述欄もある調査票です。

学齢児版CBCL/4-18は社会的能力尺度と問題行動尺度から成ります。

「社会的能力尺度は、子どもの趣味や友達関係,家族関係など生活状況を調べるもの」(武田他, 2006)です。

問題行動尺度は内向尺度(Internalizing)と外向尺度(Externalizing)などからなり、内向尺度は「社会性の問題」「引きこもり」、「身体的訴え」、「不安/抑うつ」、外向尺度は「非行的行動」と「攻撃的行動」から構成されます。

内向尺度と外向尺度以外に「社会性の問題」、「思考の問題」、「注意の問題」、それから「その他」があります。これらの尺度から各尺度得点と総得点を算出できます。

*注意:内向尺度の「ひきこもり」は厚生労働省の定義「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」とは違います。もともとの英語はsocial withdrawalで、「引っ込み思案」と訳す研究者もいらっしゃいます。

幼児版CBCL/2-3には「引きこもり」や「不安・抑うつ」、「睡眠の問題」、「身体の問題」、「攻撃的行動」、「破壊的行動」の症状尺度とその他の問題尺度があります。「攻撃的行動」と「破壊的行動」の合計得点が外在化問題、「不安・抑うつ」と「引きこもり」の合計得点が内在化問題となります。

*注意:以下、想像、もとい妄想。

○CBCLに場面緘黙を入れる利点

CBCLへの回答を幼稚園・保育園、小学校などへの入園・入学早期に求めれば、米国精神医学会の診断マニュアル、DSMや世界保健機関の分類基準、ICDにある診断基準の要件、持続期間にとらわれずに研究ができます。これにより、場面緘黙が場面緘黙「症」になる児童と途中で緘黙から脱し、話せるようになる児童の違いを研究できます(ただし、場面緘黙質問票のSMQ-Rでも代替可能)。

つまり、緘黙の持続因子の特定、言いかえれば緘黙が継続するリスクが高い児童の同定にCBCLが使用できる可能性があります。それにCBCLで引っ掛かった子を改めて場面緘黙質問票(SMQ-R)にかけるという使い方もできるでしょう。

また、CBCLは自閉症スペクトラム障害やアスペルガー症候群、AD/HD(注意欠陥多動性障害)等にも使われることがありますから、自閉症等の発達障害の「緘黙」を理解するにも役立ちます。注意の問題や社会性の問題等と緘黙を同時に調べることが可能となるので、簡単に子どもの問題を把握すること可能となり、調査研究も容易になります。

これまで場面緘黙症サイドから自閉症との関連を指摘する研究(Sharkey et al., 2012など)はありました。しかし、私の知る限り発達障害サイドから緘黙症状を統計的に検討した研究はありません。場面緘黙を組み込んだCBCLが発達障害の緘黙の理解に役立つことを願います。

関連記事⇒自閉症持ちの第一度近親者がいる場面緘黙児が約半数(愛)

○CBCLの下位尺度として場面緘黙を開発する試み以外の緘黙症に関する発表

実は第32回米国不安・鬱学会では、場面緘黙のサブスケールをCBCLに追加するという発表だけが行われたわけではありません。CBCLの件を含めると5件の発表がありました。

その5件の発表は『場面緘黙児の評価と治療についての最近の進歩(Recent Advances in the Assessment and Treatment of Children With Selective)』という表題でひとかたまりになっています。場面緘黙児の治療でポスター発表賞を受賞したこともある臨床心理学者のSharon Sung氏(シンガポール精神衛生研究所所属、デュークNUS医学大学院准教授)が司会者でした。

関連記事⇒緘黙研究の発表がポスター賞に

その1つはClare Kwan氏によるシンガポールで場面緘黙症の治療にコンピュータによる認知行動療法を取り入れた研究でした。彼/彼女?についてはこのブログて記事にさせていただいたことがあります。

関連記事⇒場面緘黙児の治療に携帯端末を使用(シリアスゲーム会議)

『場面緘黙児(・人?)に対する集団認知行動療法:おしゃべりを始めよう(Group Cognitive-Behavioral Therapy for Selective Mutism: Getting the Chatter Started by Suneeta Monga & Sandra Mendlowitz)』や『場面緘黙児への集団療法(Group Treatment for Young Children With Selective Mutism by Rachel Schafer)』という発表もありました。

その他、AD/HDや場面緘黙症の治療を行うSteven Kurtz氏が『Brave Buddies:学校の教室に似せたセッティングで行う場面緘黙症の集中的集団療法(Brave Buddies: An Intensive Group Treatment for SM in an Analog Classroom Setting)』の発表を行いました。

なお、Steven Kurtz氏は高名な児童青年精神科医のハロルド・S. コプレウィッツ(Harold S. Koplewicz)氏が創設したChild Mind Institute(ニューヨーク)に勤務しておられます。Brave BuddiesはSteven Kurtz氏が考案した緘黙症に対する行動療法です。

Steven Kurtz氏は米国の場面緘黙症グループ小児期不安ネットワーク(SMG-CAN)役員の1人です。Board Memberを役員と訳していいのかよく分からないのですが…。

○引用文献

Bergman, R. L., Keller, M. L., Piacentini, J., & Bergman, A. J. (2008). The development and psychometric properties of the Selective Mutism Questionnaire. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 37(2), 456-464.

○引用URL(2013年10月2日現在)

武田鉄郎・西牧謙吾・大崎博史・植木田潤(2006). 情緒及び行動の問題の評価 慢性疾患、心身症、情緒及び行動の障害を伴う不登校の経験のある子どもの教育支援に関するガイドブック. 国立特殊教育総合研究所.

http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_b/b-200/b-200_04.pdf

○参考URL(2013年10月2日現在)

2012年度第32回米国不安・鬱学会(Anxiety and Depression Association of America)

http://www.adaa.org/sites/default/files/Final%20Preliminary%20Program_2012%20ADAA%20annual%20conference.pdf

ASEBAに関して スペクトラム出版社

http://www.spectpub.com/CBCL/CBCLaboutASEBA.pdf

*「ASEBA(Achenbach System of Empirically Based Assessment)とは、アメリカの心理学者のT. M. Achenbach らが開発した、心理社会的な適応/ 不適応状態を包括的に評価するシステムです」(スペクトラム出版社のPDFファイルより)。CBCLもASEBAの中に組み込まれています。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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