新型コロナ対策のソーシャルディスタンシングで社交不安が低下する機会が失われた? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   社交不安(社会不安)に関する興味深い研究  »  新型コロナ対策のソーシャルディスタンシングで社交不安が低下する機会が失われた?

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクトだけ読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は、新型コロナ対策のソーシャルディスタンシングで社交不安が低下する機会が失われた可能性があるという研究です。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

新ブログ『心理学・脳科学・動物行動学アブストラクト』も設立したので、時間があればのぞいてやってください(参考記事⇒新ブログ『心理学・脳科学・動物行動学アブストラクト』開設のお知らせ)。

最近の記事1⇒亜臨床うつ病の人と一緒に働く職場は労働パフォーマンスが高い
最近の記事2⇒クラスレベルのいじめ被害が低い方が被害児の抑うつ症状が悪化しやすいというパラドックス
最近の記事3⇒頭を使って精神的疲労が高まると、サッカー、バスケットボール、卓球が下手になる
最近の記事4⇒自己制御の失敗には利点もある
↑記事2は「いじめの減少後に『残された子供』の社交不安等が悪化」という研究を思い起こさせます。

Arad, G., Shamai-Leshem, D., & Bar-Haim, Y. (2021). Social Distancing During A COVID-19 Lockdown Contributes to The Maintenance of Social Anxiety: A Natural Experiment. Cognitive Therapy & Research, 45, 708–714. doi: 10.1007/s10608-021-10231-7

イスラエルのテルアビブ大学心理学部、同大学サゴル神経科学学部の研究者による論文です。

〇序論

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより、ソーシャルディスタンシングによる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染拡大防止策がとられるようになりました。

〇目的

そもそも社会的交流を回避する傾向が強い社交不安が高い人にとって、ソーシャルディスタンシングはどのような影響をもたらすのか?を調査することを本研究の目的としました。

具体的には、 新型コロナ蔓延防止策としてとられたロックダウンで起こった自然実験の機会を活用して、社会的暴露が半ば強制的に制限された状況が、社交不安が高い大学生にどのような影響を与えたのか調査し、ソーシャルディスタンシングが一切なかった期間での高社交不安の学生の不安レベルとロックダウン下の高社交不安学生の不安レベルとを比較しました。

〇方法

大学の秋学期や春学期の初めに、社交不安が高い99人の大学生の社交不安症状を評価。

COVID-19対策として、ロックダウンおよびソーシャルディスタンシングを秋学期末に経験した、2019年~2020年の学年の大学生と2016年~2019年の新型コロナパンデミックが発生する前の学年の大学生を、社交不安レベルの観点から比較。

〇結果

新型コロナパンデミックが生じる前の2016年~2019年では、高社交不安学生の社交不安が秋学期から春学期にかけて低下していました。

一方、ソーシャルディスタンシング等の感染防止策がとられた期間がある2019年~2020年の学年では、高社交不安学生の社交不安レベルは高いままで、変化は認められませんでした。

これらの結果は、たとえ抑うつ症状を統制したり、COVID-19関連の不安と交絡していない社交不安項目のスコアで解析したとしても変わりませんでした。

〇コメント

これらの結果から、SARS-CoV-2蔓延防止対策のために社会的状況への暴露が減少したことが、社交不安レベルの維持に関わっていると考えられます。

ただ、論文ではこれとは別の説明の仕方も議論されているようです。

ところで、この新型コロナ禍における場面緘黙児家庭の状況を調査した論文は、私の知る限りありません。ですが、学会発表ならあります(Colton et al., 2021)。Colton et al. (2021)によると、COVID-19パンデミック下で親が子供の不安を緩和させるためにとる対応(配慮/調節/巻き込まれ,Accommodation)を予測するのは、パンデミック前の親子の不安でしたが、子供の不安の方が予測力としては強くなっていました。

私なんかは新型コロナパンデミックが場面緘黙症の当事者やその家族、緘黙症の医療機関などを取り巻く状況に与える影響に関心がありますが、どうなんでしょうか?特に今回取り上げた研究結果を踏まえれば、場面緘黙症がある当人の社会的交流経験や社交不安にパンデミックが与える影響が気がかりです。

〇引用URL(2021年12月2日現在,なお新型コロナウイルス感染症感染対策のため、2021年度の全米不安抑うつ協会の学会はバーチャル開催でした)
Colton, Z. A., Boneff, K., Schmitt, A., Lasutschinkow, P., & Freedman-Doan, C. (2021, March). Impacts of Pre-COVID-19 Parental and Child Anxiety on Parental Accommodations During the Pandemic in Families of Children with Selective Mutism. Poster presented at Anxiety and Depression Conference. <https://www.eventscribe.net/2021/ADAA/fsPopup.asp?efp=QlNWQk5WR1IxMjc1NQ&PosterID=350345&rnd=0.8348172&mode=posterinfo>

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP