認知行動療法(CBT) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回取り上げる論文は不安障害児に対する認知行動療法の反応を予測する遺伝子多型を、ゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study,GWAS)で探索した研究です。本論文によれば、心理療法でのGWASはこれがはじめてだそうです。これは、Therapygeneticsに寄与する研究です。Therapygeneticsとは、遺伝子型で心理療法の効果を(個人ごとに)予測する研究分野のことです。日本語にすると、セラピー遺伝学・心理療法遺伝学といったところでしょうか。

Coleman, J. R. I., Lester, K. J., Keers, R., Roberts, S., Curtis, C., Arendt, K., Bögels, S., Cooper, P., Creswell, C., Dalgleish, T., Hartman, C. A., Heiervang, E. R., Hötzel, K., Hudson, J. L., In-Albon, T., Lavallee, K., Lyneham, H. J., Marin, C. E., Meiser-Stedman, R., Morris, T., Nauta, M. H., Rapee, R. M., Schneider, S., Schneider, S. C., Silverman, W. K., Thastum, M., Thirlwall, K., Waite, P., Wergeland, G. J., Breen, G., & Eley, T. C. (2016). Genome-wide association study of response to cognitive–behavioural therapy in children with anxiety disorders. British Journal of Psychiatry, 209(3), 236-243. DOI: 10.1192/bjp.bp.115.168229.

★概要

〇方法

アメリカ、オーストラリア、西ヨーロッパの施設11か所の共同研究です。

研究参加者は不安障害の児童青年5~17歳(5~13歳が94%)。彼らは全員、個人認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy,CBT)か集団CBT、指導ありセルフヘルプ療法を受けていました。治療終了直後時点での治療反応性の予測に939人のデータ、治療終了から6か月後の治療反応性の予測に980人のデータを使用。サンプルの92%が白人西欧人。

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Differential Susceptibility Hypothesis(DSH)という仮説があります。Differential Susceptibility Hypothesisとは、良い環境にいると精神的健康が良くなりやすく、悪い環境にいると精神的健康が悪くなりやすいという遺伝因子が存在するという仮説です。たとえば、セロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)がSS型だと(平均的にみて)不安が高いはずなのに、5HTTLPRがSL/LL型の不安障害児よりも、SS型の不安障害児の方が認知行動療法の効果が持続しやすいという研究(Eley et al., 2012)は、5HTTLPRが認知行動療法という環境因子の影響を受けやすい遺伝子多型であるからだと説明されます。つまり、5HTTLPRなどのDifferential Susceptibility Hypothesisと関わる遺伝子多型は「良くも悪くも環境に影響されやすい遺伝子多型」というわけです。

先行研究では予め研究者が選択した少数の候補遺伝子で同仮説が検証されてきました。しかし、これだと、おそらくそれぞれに小さな効果のある膨大な数の遺伝子の影響を捉えきれません(これが追試の失敗の原因とも考えられます)。なので、今回の論文は研究者が候補遺伝子を予め選定したのではなく、ゲノムワイドアプローチであるという点が特長になります。

Keers, R., Coleman, J. R. I., Lester, K. J., Roberts, S., Breen, G., Thastum, M., Bögels, S., Schneider, S., Heiervang, E., Meiser-Stedman, R., Nauta, M., Creswell, C., Thirlwall, K., Rapee, R. M., Hudson, J. L., Lewis, C., Plomin, R., & Eley, T. C. (2016). A genome-wide test of the differential susceptibility hypothesis reveals a genetic predictor of differential response to psychological treatments for child anxiety disorders. Psychotherapy & Psychosomatics, 85(3), 146-158. doi:10.1159/000444023.

★概要

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DNA発現は環境の影響を受けて変化します。DNA塩基配列の変化なしに遺伝子のスイッチが切り替わる現象をエピジェネティクスと呼びます。遺伝子の発現を調整する仕組み(エピジェネティクス)にはメチル化修飾とヒストン修飾とが知られています。一般にメチル化はシトシン+メチル基→メチル化シトシン(5-メチルシトシン:5mC)のことです。しかし、少なくとも緑藻、ワーム(蠕虫)、ハエではメチル化アデニン(N6-メチルアデニン:6mA)もエピジェネティクスに関与するというミニレビューが学術ジャーナル『セル(Cell)』に掲載されました(Heyn & Esteller, 2015)。

ミニレビュー論文→Heyn, H., & Esteller, M. (2015). An Adenine Code for DNA: A Second Life for N6-Methyladenine. Cell, 161(4), 710–713. DOI:10.1016/j.cell.2015.04.021.

上記のミニレビューはどうやら以下の3つの論文を軸に論を展開しているようです。
緑藻(クラミドモナス)→Fu, Y., Luo, G. Z., Chen, K., Deng, X., Yu, M., Han, D., Hao, Z., Liu, J., Lu, X., Doré, L. C., Weng, X., Ji, Q., Mets, L., & He, C. (2015). N6-Methyldeoxyadenosine Marks Active Transcription Start Sites in Chlamydomonas. Cell, 161(4), 879–892. doi:10.1016/j.cell.2015.04.010.

ワーム(カエノラブディティス・エレガンス:C. elegans)→Greer, E. L., Blanco, M. A., Gu, L., Sendinc, E., Liu, J., Aristizábal-Corrales, D., Hsu, C-H., Aravind, L., He, C., & Shi, Y. (2015). DNA Methylation on N6-Adenine in C. elegans. Cell, 161(4), 868–878. doi:10.1016/j.cell.2015.04.005.

ハエ(ショウジョウバエ)→Zhang, G., Huang, H., Liu, D., Cheng, Y., Liu, X., Zhang, W., Yin, R., Zhang, D., Zhang, P., Liu, J., Li, C., Luo, Y., Zhu, Y., Zhang, N., He, S., He, C., Wang, H., & Chen, D. (2015). N6-Methyladenine DNA Modification in Drosophila. Cell, 161(4), 893–906. doi:10.1016/j.cell.2015.04.018.

精神医学の分野においてもエピジェネティクスへの関心は高く、論文の出版が続いています。今回は不安障害児のセロトニン関連遺伝子の発現の変化が認知行動療法の予後が良かった群と悪かった群とで異なるという論文です。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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