抑制気質から場面緘黙症を考える | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

以前、現時点では場面緘黙症の「抑制気質仮説」を裏付ける証拠がないため、この仮説(学説?)の真偽は不明であるという趣旨の記事を書きました。その記事がこちらです⇒本当に場面緘黙児は抑制気質なのか?

しかし、もしも、場面緘黙児には抑制気質があると結論付けられた場合は、場面緘黙の予防へ一歩前進したといっても過言ではありません。というのも、行動抑制に関しては場面緘黙症よりもずっと研究が進んでいるからです。

*本記事ではニュアンスによって場面緘黙症と場面緘黙を使い分けています。私が「症」を付けるのは医学的な診断基準であるDSMやICDに記載されていることを強調するためで、基本的には診断基準を満たしている場合に使用しています。しかし、予防ということになると、入園・入学時の一時的な緘黙も対象となるので、「症」はつけません。

なお、行動抑制の基礎事項についてはこちらをご覧ください⇒行動抑制の概念 by Jerome Kagan

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一部の人にとっては衝撃的なタイトルかもしれませんが、私は愛読している推理小説の影響なのか、まず初めに前提や主流となっている説、「事実」を疑うことから始めないと気が済まないたちです。

というわけで、今回は場面緘黙症の根底には抑制気質があるという説を疑います。

なお、行動抑制(抑制気質)に関する基本的事柄はこちらをご覧ください⇒行動抑制の概念 by Jerome Kagan

○素人が抑制気質の子どもとそうでない子どもを見分けるのは難しい

親や教師は行動抑制が高い子どもと行動抑制が低い子ども(ここでは保育園・幼稚園の園児)を見分けられません(Ballespí et al., 2012b)。また、親の評定と先生の評定が一致せず(相関係数は0.3)、研究者の観察と先生・親の評定も一致しません(Ballespí et al., 2012b)。

以上の結果はたとえ行動抑制が極端に強い園児を選んでも変わりません。ゆえに、もしも「大半の場面緘黙児には抑制気質がある」という主張が親や教師によるものだとしたら、信頼性が低い論説です。

たとえ臨床家が場面緘黙症の子には抑制気質持ちの人が多いなと感じていたとしても、ほとんどの臨床家は行動抑制のエキスパートではないでしょうから、それもどれだけ信頼できるのか怪しいものです。

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Jerome Kagan 氏が提唱した「行動抑制」という概念。現時点では、行動抑制と場面緘黙症が関連している可能性も否定できないです。そこで、行動抑制に関する論文を調べていたところ、行動抑制と社会的ひきこもりの関連を指摘する論文を見つけてしまいました。それも今年(2010年)のものです。
↓下の論文がそれ。

P'erez-Edgar, K., Bar-Haim, Y., McDermott, J.M., Chronis-Tuscano, A., Pine, D.S., & Fox, N.A.(2010).
Attention biases to threat and behavioral inhibition in early childhood shape adolescent social withdrawal. Emotion,10,349-357.

↑上の論文は幼い頃の行動抑制が青年期(平均15歳)の社会的ひきこもりを誘発する可能性を示唆しています。ただし、それは行動抑制の傾向が低い統制群と比較して、注意が脅威となるものに大きく偏っている場合に現れたそうです。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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